無花の桜木
娘は言葉を失った。

立っていることさえできない。


真っ白になった頭の中で響くのは、愛した男の死を知らせる、無情な父親の声。


その日は春も間近だというのに、雪が降る寒い日だった。





娘は、雪の降り続ける道を歩き、男の墓を訪れた。


まともな石さえない寂しすぎる墓が、そこには在った。



亡くなったのは、紅葉が見頃の時期だったらしい。

しかし、この場所に墓ができたのは最近。

そして、骸が戻ってくることはなかった。



娘は泣き崩れた。


夢ではなく現実なのだと、判ってはいても、納得することなどなかった。

できるはずが、なかった。
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