無花の桜木
あの別れから一年。


ある春夜、娘は約束の場所を訪れようとしていた。



あの頃と変わらない娘の美しさ…けれど、その顔にはもう、笑顔はない。



幸せであるはずがなかった。

それでも娘を生かしていたのは、あの約束があったからだ。


ただ、それだけのこと。



しかし、今となっても娘はまだ信じていた。

男との再会を…。



娘は、桜木を目指して歩みを進めた。


当然その先に求める人の姿はない。

しかし…。



娘は歩みを止めた。

そして驚きに目を見開く。



そこには、桜があった。



お世辞にも満開などとは言えない桜。

しかし、確かに咲いているのだ。


数えられるほどの桜を纏った桜木が、そこには在った。
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