ジュリエットに愛の花束を。


「なんかおかしいよな。瑞希」

「……分かった。じゃあマスカラはもう二重塗りなんかしない。唇も遊び心でテカらせない」

「そういう意味じゃねぇよ。……分かってて誤魔化してんだろ」

「だって……、っていうか、……その、」


樹が真剣な顔して言うから、なんだか変な空気になる。

そのせいでってわけでもないんだけど、アリサさんとの事を隠してる後ろめたさから、「違う」とは言い切れなかった。


いつもなら隠し事なんかしないから、こんな風にしどろもどろになることなんて、まずないのに。

いつもなら怒鳴りあって、言い合ってケンカするのに……。


今はただ気まずい空気が流れていて、すごく居心地が悪い。


いつもとはあまりに違う態度をするあたしを、樹が見逃すわけなかった。


慣れない空気に気持ちが悪くなって、目を逸らしたままうつむいていた時。

樹に手を掴まれる。


「えっ……なに?! ちょ、樹?」


聞いても何も言わない樹に不安になりながらも、半ば引きずられるようについていく。

樹は空き教室のドアを開けると、中に入って……、閉めたドアにあたしを押し付けた。








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