ジュリエットに愛の花束を。


身体に触れる指は、樹の指なのに。

身体を這う唇は、樹のものなのに。


嫌だ、なんて思う自分がいて、そんな自分を信じたくなかった。

樹を嫌だって思うなんて、そんなの……っ。


「……、ごき、ぶりがいるっ……!」


どうにかして樹の暴走を止めたくて出た言葉は、そんな言葉だった。

潔癖症に近い樹になら、ごきぶりは効果抜群なハズ……っ。


あたしの場違いな発言に、樹は言葉の信憑性よりも、変な事を口走ったあたしに疑問を持ったみたいで。

とりあえず、行為が一時停止する。


それを見て、あたしはすぅっと息を吸い込んでから、パチンと音を立てて樹の頬をビンタした。


「……ってぇー……」


至近距離からまともにはたかれた樹が、片目をつぶってあたしを見た。

その瞳が……、驚きに変わって行く。


「……瑞希、」

「樹のばかっ! 変態っ! 色魔っ!! エロおやじっ!! 勝手に盛んないでよっ!」


多分、樹が驚いたのは、あたしの目に溜まっていた涙が原因だと思う。

何の涙だかは分からないけど、なんでだか勝手に緩んだ涙腺が、涙を溢れさせていて。


それは、あたしの意識では止められなかった。



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