ジュリエットに愛の花束を。
愛しい声
…~~♪
ディスプレイには、『樹』の名前。
「出ないのか? 鳴ってるぞ」
「うーん。出るけど」
「どうせ椎名だろ? なんだ、まだケンカ中か」
「ううん。でも痴漢のこと怒ってるみたいだし」
「痴漢? ……っておまえが遭ったのか?!」
『まさかおまえが……?』
そんなニュアンスの言葉が、やけに耳に障る。
「もー、お兄ちゃんうるさい」
「お兄ちゃんに向かってうるさいってどう……」
「電話出るから黙ってて。っていうか部屋戻る」
お兄ちゃんの言葉を遮って電話に出る。
階段を上がりながら言葉に迷っていると、ケータイの向こうから樹の声が聞こえた。
『瑞希?』
久しぶりに聞く樹の声が、やけに胸を締め付ける。