ジュリエットに愛の花束を。
迷う気持ち
どうやってここまで来たんだか、覚えていなかった。
今、あたしは確かに樹の部屋にいるんだけど……。
ここまでの経緯がまったくもって思い出せない。
……まぁ、普段から慣れ親しんだ道順をいちいち気にもとめてないけど。
でも、歩いた事さえ忘れてるのは重症だ。
……それほどショックだったのかな。
「……でも、ショックでしょ。アレは」
独り言をもらして笑おうとして……、表情が作れないことに気づく。
笑うことはもちろん、怒ることも何もできない。
いつもの定位置のソファの上で、そっと自分の頬を触ってみる。
冷え切った指先が、同じくらいに冷えた頬に触れたけど……何も、感じなかった。
感覚がなくなるほどに冷え切った身体。
働こうとしない頭。
同じ場所に留まったまま動こうとしない感情。
まるで透明にでもなったみたいに、身体全部の感覚がなかった。