ジュリエットに愛の花束を。


『椎名先輩は、走るのやめちゃダメだと思うから』

あたしも、そう思う。

そう、思うのに……。


『そんな理由で』

あたしは、そうは思えない。


樹が走るのをやめるなんて嫌だって本気で思ってる。


……でも、あたしとの事を『そんな事』なんて、思えない。

思って欲しくない……。


この場に及んでわがままばかりが胸をつく自分に、本気で嫌気が差しそうだった。

だけど、それは紛れもなくあたしの本心で。


樹に陸上を続けて欲しい。

離れたくない。


同じくらいに主張する本心だからこそ、絡まってこじれて……どちらを選択すればいいのかが分からない。

……分かりたくない。


考えたくないのに、分かりたくなんかないのに、他の事が追い出された頭には、結局その事以外は見つけられなくて。

そんな思考回路がやっとの思いで見つけ出した樹の笑顔が、一瞬にして頭に映像化される。


まるでビデオでも見てるみたいに、鮮明に……あたしに笑いかける。










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