ジュリエットに愛の花束を。


樹の言葉を頭の中で理解するまでに、だいぶ時間がかかったと思う。

だって、そんないい話がすぐに信用できるわけがない。


そんな好条件で入社させてくれる会社なんて、本当にあるの?

大体、そんな会社といつ面接してたの?


樹があたしを大人しくさせるために言った嘘かな、とも思ったけど……。


まっすぐにあたしを見つめる樹の姿に、それが嘘じゃない事を確信する。


「……本当、なの?」


それでもどこか信じられなくて震える声を出すと。


「ああ」

「本当に本当……?」

「本当」


樹は自信満々に微笑んで頷く。


そこでやっと飲み込めた状況に、嬉しさが湧き上がると一緒に、記憶が遠ざかっていった。

ふわふわした気分に、そのまま意識を手放す。


身体がひどくだるいのに、幸せな気持ちでいっぱいだった。



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