ジュリエットに愛の花束を。
「……なに?」
「お兄さん帰ってくる前に……」
そこまで言った樹の親指が、あたしの唇に触れた。
キスを予感させる指に、ドキンと心臓が跳ねる。
じょじょに距離を縮める樹に、どうしていいのか分からなくて目を伏せると、樹が笑う。
仕草と吐息でそれが分かって、どうにかして逃げ出したくなるけど。
樹の唇があたしに触れそうになったのを感じて、目を閉じた。
……けど。
「なんだよ。……じらしプレイ?」
思い出した事に、樹の口許を手で押さえる。
「違う。樹、就職の事とか陸上の事とかあるのに、風邪引いたら大変でしょ」
「軽くするくらいなら平気じゃねぇの?」
「ダメ。っていうか、それで樹が風邪引いたらあたしが嫌」
強く言うと、樹は諦めたのか笑顔を浮かべてから、かがめていた身体を起こす。