ジュリエットに愛の花束を。


「分かった。じゃあ、治ったらな」

「……」

「さっきした約束も忘れるなよな」

「だから、どこに行く……」


再び論戦が交わされそうになった時。

玄関が開く音がした。

そして続いて聞こえてきたのは、階段を勢いよく駆け上がってくる足音。


「……お兄ちゃんだ」

「だな」


ノックなしで開いたドアからは、予想通り息を切らしたお兄ちゃんが入ってきて。

ベッドで横になるあたしを見るなり、眉を寄せた。


「大丈夫か? 熱は?」

「体調は大丈夫。熱は……知らない」

「37度7分です。少し下がりました」


本人のあたしが知らないって言ったのに、樹が普通に答える。


「いつ計ったの?」

「瑞希が寝てる時。

あんまり熱が高いようなら病院連れて行かなくちゃだし、心配だったし」


と、そこまで言ってお兄ちゃんの存在を思い出した樹が、気まずそうな顔をする。

「やべっ……」って顔。






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