不器用な愛で、意地悪なその唇で。
「ねぇ千架、いこうよぉ?」
「んー……、」
今日も無言で千架くんの誘いの様子を見守る。…こんなの日常茶飯事。……そして。
「わかった!行こう?」
───“彼氏”である千架くんが、ほかの女の子からの誘いを“OK”するのも、いつものことで。
「…………………。」
あたしは千架くんの返事を確認して軽く瞳を伏せ手にバックを持ち教室から立ち去る。
…聞こえてくるのは女子の楽しげな声と、──一番聞きたくのない千架くんの楽しげな声。
「あ、春っ!」
教室を去ったあたしの背後から“思い出したような”千架くんの声があたしを呼び止める。
あたしはゆっくりと振り返って千架くんが走りよってくるのを待った。
「今日、女の子たちとカラオケ行ってくるから、さ。…ごめん、今日も一人で帰って?」
「っ、う、うん。…たっ…楽しんできてね!」
あたしが苦く笑ってそう言うと千架くんは少し困ったような苦い顔をして"じゃぁね、"と手を振ってあたしに背を向け来た道を戻る。