不器用な愛で、意地悪なその唇で。





もしかしたら千架んはあたしに愛想尽きて“別れ”を切り出してしまうかもしれない。

“行かないで”とか“あたしだけ見て欲しい”とかそんな欲張っちゃうと、もっとそのスピードが増しそうで…それも怖くて。

あたしには今、我慢という単語しか…ないんだ。





「おはよう、春」

「おっ、おっ、おはよう…!」



次の日の朝。朝だけは必ず千架くんは笑顔で迎えに来てくれる。…あたしは挨拶のひとつも好きな人の前ではうまくできないほどの口下手だ。



「今日、寒いねー…」

「そうだねっ………」



季節は冬。あたしや、もちろん千架くんの首にも愛用のマフラーが巻いてある。

……会話が途切れる。…手だってもう繋いでない。

千架くんはどこか上の空。あたしは千架くんの様子を伺うだけでどうすることもできない。

───弱虫だなぁ、あたし。



「あっ、千架ぁ~!おはようっ!」



気まずいあたしたちの雰囲気になにも察することなく臆することなく背後から声がかけられる。

呼び出された人は、まぎれもなく隣にいた千架くん。…そして呼んだ人は千架くんの周りにいつもいる─女の子。






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