遠まわりな初恋
思わず口に出てしまっていたらしい。見れば、今日同じ大学に入学したばかりの親友が、隣に並んでいた。
高校時代の部活動の関係で、当時のコーチから勧められ、偶然にも同じ大学へ進学した古屋綾子は、オリエンテーションが終わったあと、早速コーチが紹介してくれた先輩の元へ挨拶にいくと言って、入学式のあった3号館の体育館から、少し離れた5号館の体育館へと行ってしまった。長引くかもしれないから、先に帰っててと言い残していた割には、早いお帰りだ。
「早かったね」
素直にそう口にすると、綾子は残念そうに先輩が休みだったのよねーと呟いた。
「部活自体はやってたんだけど・・・っと、もう大学生なんだし、サークルね、サークル」
「活動はしてたけど、目当ての先輩が休みだったってわけ?」
「そうそう。せっかく足を向けたのにムダ骨よー」
小さくため息をついて、髪の毛の先をいじる。長い髪を顔の横で一束ねにして流している髪型は、最近綾子が気に入っているスタイルだ。高校までは二つに分けていわゆる「おさげ」のような格好だったのが、大学入学と同時に大人びた雰囲気へと一気に変化した。これもいわゆる大学デビューというやつなのか。
くるくると軽いウェーブは天然パーマで、そのうねりを利用して指にからめるのが綾子のくせとなっていた。
「で、何うなってたのよ」
綾子が話題を蒸し返してくる。小学生のときに引っ越してきて以来、『ご近所さん』で『幼馴染』の綾子とは帰りのバスも一緒だし、この際さっきの出来事を聞いてもらうかと考えて、理沙は口を開いた。
「いやね、さっき男の人に声かけられちゃってさ」
「はあ? 入学早々ナンパ?」
「いやいや、そうじゃなくて」
出だしが悪かったのか、あらぬ誤解を受けそうで慌てて否定する。
見たこともない青年に急に声を挨拶をされたこと、不躾なまでにまるでこっちを知っているかのように振舞われたこと。
「ほんっとに見覚えないの?」
重ねて確認する言葉にただただ頷くしかない。
細いけれどしっかりとした骨付きの体も、怜悧な光を跳ね返す眼鏡の奥の細い瞳も、低い男の音階を持った声も、何かを訴えかけてくるような視線も。
何もかも、身に覚えがない。
高校時代の部活動の関係で、当時のコーチから勧められ、偶然にも同じ大学へ進学した古屋綾子は、オリエンテーションが終わったあと、早速コーチが紹介してくれた先輩の元へ挨拶にいくと言って、入学式のあった3号館の体育館から、少し離れた5号館の体育館へと行ってしまった。長引くかもしれないから、先に帰っててと言い残していた割には、早いお帰りだ。
「早かったね」
素直にそう口にすると、綾子は残念そうに先輩が休みだったのよねーと呟いた。
「部活自体はやってたんだけど・・・っと、もう大学生なんだし、サークルね、サークル」
「活動はしてたけど、目当ての先輩が休みだったってわけ?」
「そうそう。せっかく足を向けたのにムダ骨よー」
小さくため息をついて、髪の毛の先をいじる。長い髪を顔の横で一束ねにして流している髪型は、最近綾子が気に入っているスタイルだ。高校までは二つに分けていわゆる「おさげ」のような格好だったのが、大学入学と同時に大人びた雰囲気へと一気に変化した。これもいわゆる大学デビューというやつなのか。
くるくると軽いウェーブは天然パーマで、そのうねりを利用して指にからめるのが綾子のくせとなっていた。
「で、何うなってたのよ」
綾子が話題を蒸し返してくる。小学生のときに引っ越してきて以来、『ご近所さん』で『幼馴染』の綾子とは帰りのバスも一緒だし、この際さっきの出来事を聞いてもらうかと考えて、理沙は口を開いた。
「いやね、さっき男の人に声かけられちゃってさ」
「はあ? 入学早々ナンパ?」
「いやいや、そうじゃなくて」
出だしが悪かったのか、あらぬ誤解を受けそうで慌てて否定する。
見たこともない青年に急に声を挨拶をされたこと、不躾なまでにまるでこっちを知っているかのように振舞われたこと。
「ほんっとに見覚えないの?」
重ねて確認する言葉にただただ頷くしかない。
細いけれどしっかりとした骨付きの体も、怜悧な光を跳ね返す眼鏡の奥の細い瞳も、低い男の音階を持った声も、何かを訴えかけてくるような視線も。
何もかも、身に覚えがない。