オフィスレディの裏の顔
「美鈴ちゃん、いまのうちに携帯のメアド交換して。」

「あ、そうね。」

私たちはプライベートの連絡先を知らない。そんな仲で恋愛の、不倫の相談をしてきた彼女はすごい。他の子にはこんな話はできないけど、私なら相談にのってくれると思ったと言う。もちろん私がモデルをしていたこと、クラブで働いていたこと、男たちと奇妙なお遊びをしていたことなど彼女は知らない。でも何を嗅ぎつけたのか仲良くなれそうだからと言われてしまった。(笑)

30分くらいたって、鶴見さんがみんなを連れて私たちのいるカフェまで迎えにきてくれて、それから居酒屋に移動した。この時点で男は5人、女は3人。広めの個室に入ると、マリコはちゃっかり鶴見さんの横に座っていた。私はその向かいの席に座った。このメンツで盛り上げ役になるのは飲み会幹事を務めるのが大好きな吉田さんだった。話題はもちろん仕事のことばかりだけど愚痴を面白おかしくしながら語ってくれる。でも私には全く興味のない話ばかりで、お酒も好きじゃないし、向かい席のマリコをずっと観察していた。さっきまで私とはガツガツしゃべっていたのに、好きな人を目の前にすると急におとなしくというかおしとやかに振る舞う。いわゆるネコをかぶった状態?私は女の前と男の前で態度が変わる子は好きじゃない。2人きりの時ならしてくれても結構というか私もするけど、みんなの前でぶりっこする子は大嫌いだ。残念なことに彼女はそのタイプだった。

そんな風に観察を続けふと時計を見ると0時近かった。

「盛り上がっているときにすみません。そろそろ私帰ります。」

「え〜っ!これからみんなでカラオケ行くから一緒に行こうよ〜。」

男たちが必至で引き止め始めた。隣りに座っていた吉田さんが席を立った私を座らせようと私の手をつかんだ。

「美鈴ちゃんにあゆ歌ってほしいな〜。」
マリコの顔を見ると、帰らないでという合図を出していた。実は私、カラオケは1人で行くほど好きなのである。結局私は帰るのをやめた。
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