海風
 最後に来たのは、小学生頃だった思う。
 見上げれば空は満点の太陽を掲げている。その太陽から光により、そいつはキラキラと光っていた。

 清涼の海である。

 おれは足を一歩踏み出す。砂の感触がサンダル越しでも強く感じた。熱い。太陽がかっと一瞬強く光った気がした。おかげで上と下両方が熱くなった。どっと全身から汗が噴いた気がした。
 おれは上着を昆虫が脱皮するように脱いだ。胸に涼しげな潮風があたり、暑いのに気持ちよかった。

 これが海……

 最後の夏の海だ。

 おれは白い砂浜を大股で走り抜けた。途中転けそうになり、サンダルがすっぽぬけたが無視した。
 海が目の前にあった。静かに波の音をたてていた。波がゆっくりと迫り、おれの足を包んだ。びっくりするほど冷たかった。思わず全身が震えた。

 海だ。
 正真正銘、こいつはおれが求めていた海だった。



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