海風
1章 夏の始まり
 おれは、情けない男だ。 小学生のとき……好きだった女の子を、いじめっこで有名な奴から守れなかった。
 中学生のとき……付き合ってた彼女から友達だと紹介された男に、彼女を取られた。
 高校生のとき……最後の思い出を作りにいこうと友達に呼び掛けたが、全て一蹴された。
 いろんな事が情けなかった。
 大事なところでいつも失敗する。
 こんな自分を何度恨んだことか。
 そしてついに、神様って人も、だめで情けない自分に愛想をつかしたようだ。
(でも18で死ぬとは思わなかったな……)

 しかし、悪くなかった。なんだかフワフワした感触が全身を包み、温かく気持ちよかった。甘くいい匂いもした。死ぬことがこんなに気持ちがいいとは、死んだ人にしか判らないだろう。早々に死んでおれは得したんじゃないか? と思う。
「起きろ! 少年!」
 声がした。蚊が鳴くような小さな声だったが、なぜか必死で焦っていた。
「おかしい……呼吸も正常、心臓も動いてる。顔色も悪くないのに」
 さっきよりもよく聞こえた。綺麗な女性の声だ。言ってる事は謎だが、すごく焦り、困っている様子だ。 この女性は天使か何かだろうか? おれはもう天国に来てしまったのだろうか? いやしかし、天使が困るとはどういうことだ? 天使にも所帯染みたことに右往左往して、人間みたいに困ってしまうことがある、てことだろうか。
 目を開けて天使を見てみたいが、もの凄く眠かった。
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