キスの魔術師
「それより、さっき〝アメイジング・グレイス〟歌ってたのって、キミ?」
それよりって…あんた……
あたしがこけた方が大事だろ。
…まぁ怪我してないからいいけどね。
『……盗み聞き…』
「違うよ。聞こえただけだし」
『立派な盗み聞きだよ』
「……発音、綺麗だね」
『は?』
「もう1回歌ってよ」
『……別にいいけど…』
「〝けど〟…?」
『…あなた、名前は?』
「あ、俺? 俺は、桐原恭介。そっちは?」
『…幸村ハイジ……』
「ふ~ん。覚えやすい名前!!」
『…じゃぁ、耳の穴かっぽじって、よく聞いとけ!恭介!!』
「YES」
あたしは心をこめて歌った。
『……Amazing grace how sweet the sound……』