恋に恋した5秒前




恋の家は白を基調とした家具達が揃っていて綺麗で、物があまりなかった。
僕の家のリビングとは大違いだ。

「…どーぞ」


麦茶を出されて、僕は一口口に含んだ。
冷たくて美味しい。


「あっ、プリントとジュース」

「ありがとう」


恋が風邪なだけに、あまり長居は出来ない。
僕もちゃんと今までありがとうと言って家に帰ろう、そう思った。


「熱はある?」

「今は7度台だよ」

「よかった。あんまり無理しちゃ駄目だよ」

「うん。明日と明後日は念のために部活は休むつもり」

「そっか」

「レンのいない部活って実感ないなー、あたし。ちゃんとマネージャーの仕事出来るかな」

「出来るかなって、もうしっかり出来てんじゃん」


違うよ、そう恋は言うと僕を見た。


「レンはいっつもあったかい言葉かけてくれてたから。きっと今まで通り楽しいんだろうけど、なんか、心がぽっかり…みたいな」

「心がぽっかり?」


…それってどういう意味だよ。


「…ま、あたしもがんばるね!レンもアメリカで活躍してきてね!」

「おう」


バクバク動く心臓の音を止めながら、

今までありがとう、そう言い立ち上がった途端、テーブルに当たりコップが揺れた。

ゴトン、コップが倒れたとき、目があったのは恋だった。

瞳と瞳の距離が近い。






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