恋に恋した5秒前
「恋。」
僕は二人に気付かれないように、小さく言った。
「なに?」
「ちょっとさ、疲れない?休憩しよう」
「え?大丈夫だよあたしは」
「いいから、僕が疲れたし。二人とは花火見るときに合流すればいいと思う」
「えー」
僕は彼女の手をとって、人込みから抜け出した。
川沿いを歩く。
座れそうな場所を探して、僕は恋を座らせた。
「足、痛いんでしょ。」
「え、そんなことないよ、ほら」
恋は直ぐさま立ち上がり、下駄をはいた足でジャンプした。
一見普通に見えたけど、一瞬ものすごく痛そうな顔をしたのを、僕は見逃さなかった。
「いつそうなったの」
観念したのか彼女はちょこんとその場に座ると、僕の問いに答える。
「満員電車だったでしょ、あのとき、足踏まれたちゃった」
えへへ、と彼女は笑うけど、
「痛かったら、ちゃんと痛いって言いなよ」
ぶっきらぼうに、こうしか言えない僕がいた。