消えた恋人。
第一章 「告白の一分前」
――白石つぐみの恋人、山室洋祐は二年前、自殺未遂をした。
マンションの屋上から飛び降りて...。
幸い下が芝生だったから一命はとりとめたものの、現在も昏睡状態が続いている。
医者の話によると、もう目を覚まさないかもしれないらしい。
その時つぐみ達は付き合ってまだ一ヶ月。
お互いまだよく分からなくて、これからだ、という時に起きた事件。
二年経った今も、つぐみの心を痛めつける。
――こんな嫌な思いをするくらいなら、、、
「…ぐみ……つぐみ!もう授業終わったよ!」
同じクラスの友人、矢田優に背中をシャーペンでつつかれて起こされた。
つぐみは、つい授業中寝てしまったのだ。
優は小学生からの親友で、もちろん洋祐の事も知っている。
しかも文武両道で、性格も明るく…いわゆる完璧人間。つぐみとは大違いだ。
…つぐみは、また洋祐の夢を見た。
つぐみは事故の日から、毎日洋祐の夢ばかり見る。
夢の中の洋祐は、とても悲しい顔をして、「助けて」と訴えているのだ。
しかし、つぐみが助けようとしていくら手を伸ばしても、洋祐には届かない。
…あの日のように...。
「つぐみ、また山室君の夢?そっかそっか!ならあたしの胸へ飛んでこーい!」
優は今日も持ち前の明るさで、精神的に危ないつぐみを支えている。
優のおかげで、何とか毎日やっていけてるくらいなのだから。
「優~、今日は優も洋祐の所行くよね?」
つぐみはお言葉に甘え、と、優の胸へ飛び込んで、問いただしてみる。
洋祐がいる病院は、学校から近いので優が部活のない日は、こうしていつも病院に顔を出すのだ。
しかし、今日は違ったようだ。優はつぐみをぎゅっと抱き締めた。
端から見れば、おかしな風景にしか見えないが。