消えた恋人。


「つぐみちゃん?最近あんまり話せなかったから久々だねぇ!」

「っあ!前原さん、こんにちは~。」

「最近学校どう?元気そうで良かった。」

前原さんとはつぐみと一回り以上年が離れているのもあるのか、母親に似た愛情が感じられる。

「はい、おかげさまで!それより…」

つぐみは前原さんと会うと、必ず聞くことがある。

「洋祐は今日も元気ですか?」

帰ってくる言葉は分かってるけど、それでも洋祐の存在を感じたくてつぐみは聞くのだ。

「ええ、相変わらず良い顔して眠ってる。脈拍も異常なしよ」

「そうですか、よかった」

「今日もまた話しかけてあげてね」

話しかけたりすると、脳に刺激を与えて良いらしい。

「はい、今から向かいます」

ほぼ毎日同じ病室に通っている。


今日もまた、ずっしりと重い気持ちを抱えながら207室のドアを開ける。


「洋祐~入るよ~」

もちろん洋祐はそれに答えず、絶えず眠っている。


――まただ。

いつも知らない間に病室の花瓶に花が活けられている。

思い当たる人物はいないが...洋祐の親族がやっている事だろう、と思う。

昨日も洋祐に会いに来たが、今日も全く同じ顔。
「いい加減、私の話に答えてくれても良いんじゃないですかぁ?」

つぐみは、ぼやきながら置いてあった椅子に腰を下ろす。

「ねぇ、洋祐。今日はね、優も来る予定だったんだけどバイトだってさ~。ほんっと、つれないよね。」

眠っている洋祐には答える事は出来ないが、つぐみは自分の話を聞いてくれている、と信じているのだ。

「だからね、洋祐が起きたら一緒に優のラーメン屋行こうね!」

高2のつぐみ、高3の洋祐には決定的とも言える共通点があった。

それは二年前の夏、事故のちょうど二週間前―――


『洋祐、男には決断する時があるのよ』

『あぁ…だが…くそっ…』

『味噌か豚骨!さぁどっち!?』

そこは、味噌ラーメンと、豚骨ラーメンが美味しいと評判の店の前。

そう、二人はいわゆるラーメン奉行なのだ。

『味噌は味噌で狂愛してるし...いや、豚骨のコクもだな...』

そんな端から見れば、くだらないやりとりをしていた日々…。



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