哀悼歌
三年前
頭が割れるかと思うぐらい、酷い衝撃だった。
実際、私は動けなくなった。なのに身体中の血液だけは相変わらず身体中を駆け巡っている。ぐらりと眩暈がして、目の前にいる泣きそうな顔をしたお父さんの姿が霞んだ。それと同時にふと脳裏に浮かんだのはあの男だったが、それどころじゃないときつく唇を噛みしめた。
すぐに気を失いたいぐらいに苦しかったけれど、なんとかして意識を保った。気絶して倒れてしまわないように両足に全神経を注ぐ。
――結果を、待たねばならない。
今の私をつなぎ止めているものはそれだった。言葉の定義なんて人によりけりで、医者が大袈裟に「重体」だと騒いでいるだけなのかもしれないし、何しろ大事なのは結果だ。
重体だろうが瀕死だろうが、内臓や骨が大変な事になっていようが興味がない。
命が助かればいい。…その過程で取り乱したら駄目だ。
強がりに過ぎないそれを呪文のように唱えながら、私はお世辞にも柔らかいとはいえない病院の堅い椅子に座り込んだ。
息を吐く、吸う、苦しい。目を閉じても開いても駄目だった。
簡素に事実のみを告げ、口を閉ざしてしまったお父さんを見ると、よれた薄紫色のネクタイがちらっと視界に入った。お姉がお父さんの誕生日に買ってあげたものだった。
外はあんなにも騒がしかったのに、今は、しんとしている。なのに煩い。静寂がとても煩い。
白衣を纏った医者が早く現われて、安心させてくれるのを心の中で祈っていた。
噛んだ唇から鉄の味がした。