フタリの事情。
つーか、そもそも傘が間違ってたのか……

気付いても、今更だ。



「ちっ、違うのてっちゃん!
そういう意味じゃなくて――」


ぎゅう。


突然、左腕にしがみついてきた細い指。

俺、ビックリして、


「り、りぃっ?
ちょ、雨に濡れ、」


「逆なの!すごく大事だから……
てっちゃんのプレゼントだし、使うのもったいないし、汚れるのとか雨に濡れるのとか嫌だったし、もし壊れたらって考えるだけでもヘコみそうだし、しばらく部屋の中に飾ってたくらいで、それでっ、」


えっ。


「それで……わた、し……」


声の勢いはどんどん下降してって、


「わたし……な……何、言って…るの、かな?」


カタコトみたいになった言葉は、とうとう雨音に混じって消えてった。



「………」

「………」


二人で、しばし沈黙。

オレンジの傘の中で、りぃは口をパクパクさせてる。

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