フタリの事情。
空気が止まってるみたいな、そんな気さえする。

周りは静かなのに、俺の心臓だけがうるさくて。


“好きだ”


最初の「す」を言いかけた時、


「――あと10分で閉めまーす。
受付に用事がある方は早めに来て下さ~い」


気張ってた身体中からドッと力が抜けた。



あ、ありえねーっ……

何このタイミング!!


おい図書委員っ、こんな時に邪魔すんなよなぁ……

……終わった。



「……りぃ、帰ろ」


「え?」


「10分で閉まるってさ。
もうそんな時間だったんだな」


「……あ、うん」


「本、俺が戻しとくから。
りぃがこけて怪我でもしたら大変だしさ」


無理矢理笑顔を貼り付けて、俺は足元の世界遺産を拾い上げた。

引きつってるのが自分でも分かるけど、他にどうしろってんだ。


こんな雰囲気の中、もう一度立ち上がる勇気なんかあるわけない。

つーか、今の勢いと覚悟はいつかまた訪れてくれるのか?


俺……マジでずっと告白できないかも。

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