【短編 時間を越えて】
医師は亨に資料の一部を手渡した。

「これは?」

「それは吉沢さんの延命に使われた装置です。
当時はまだ開発段階のものらしく、正式な認可はおりていなかったらしいのですが、研究実験ということで使われたみたいなんです。」

亨は資料に目を通した。

そこには【人体冷凍装置】と書かれていた。

「正直、吉沢さんがこうしていられるのは奇跡だったんです。
当時の装置は研究段階だったもので助かる見込みはなかったんです。
冷凍中に死んでしまった方、または保存中に死んでしまった方、解凍段階で死んでしまった方。
吉沢さん以外の方はみなさん亡くなってしまいました。
数で言うと数万人にのぼります。」

「その話しが本当なら、俺の知ってる人はこの時代に誰一人いない…ってことですか?」

医師は頷いた。

「残念ですが…。」

亨は左手にはめられた指輪を右手で強く握りしめた。

「美紀…。」
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