お家に帰ろう。
哲司は思い出した。


「家の側で見かけたことあります!」

「!そー…だったかな?あー、知人を訊ねたときかもしれないなぁ。」

「一回だけじゃないっすよ。」

「迷ったんですよ。あの辺は、道も建物も似ているから。」

「俺、住所なんて言ってないっすけど、今。」

「…」

「覚えてるじゃないっすかぁ。」


哲司が確信すると、男は頭をかきながら、大きくため息を吐いてみせた。


「覚えてますよ。あの時は君を見に行ってたんですから。」

「はぁ?」

「勘違いしてたんです。」

「何を?」

「君の名前を、勝手に“あきら”だと思ってた。何のことか分かるかな?」

「!…明と?」

「“さやか”と読ますとはねぇ。…渡された赤ん坊の時の写真の裏に“明”と書かれていたもんだから、てっきり男だと思い込んで…」

「あんた父親か!?」

「…」

「じゃあコレ、拾ったんじゃなくて…会ってたんすか?」

「最後だと言われました。」

「…」

「今は何も問題は無いと」

「そーだよ。あの家は仲良くやってる。」

「らしいですね。」

「はっきり言って、今さらあなたが入り込む余地ないっすよ。」

「それが一番、幸せな事なんでしょうか…ね。」
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