お家に帰ろう。
――そのはじまりは、週末の夫婦の、こんな会話が発端だった――


将人が一人暮らしを始め、さらに遥が大学に通いだしてからは、
上條家の夕食の時間は、めっきり遅めだった。


「明は?」


リビングでテレビを観てる夫が、キッチンでの夕食の支度を済ませ、すでに片付けも終えんばかりの妻にたずねる。


「あら?そう言えば、まだ帰ってきてないわ。」

「遥は?」

「今日は少し遅くなるって言ってた。もう大学生なんだから、色々と付き合いがあるんでしょ。」

「ふーん。」

「明もそろそろ帰ると思うけど…電話してみようかなぁ。」


家の電話に登録されている、明の携帯電話の番号は、留守番電話サービスに繋がった。


「電車の中かしらね?」

「もう戻ってくるだろう。」

「先に食べますぅ?」

「んー…もう少し待ってみるか?」

「私が待つから良いですよ。お腹が空いたでしょ?」

「香りにそそられて、さっきから腹が鳴っててね…先に食べるかな!」


そう言って夫がテーブルに座り、妻は笑いながら用意をした。


「何がおかしい?」

「…こんな日が、もう、そう遠くはないんだなぁと思ったら、ちょっと寂しくなって…だから、笑って誤魔化してみたの!」

「なに言ってるんだ。まだ先の話だよ。」

「そーかしら?」

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