お家に帰ろう。
「わたくし、大貫康太郎の代理人の者で…」


その名前に、硬直する弥生。


「今日、大貫氏の実の子女でらっしゃる、明さんが尋ねて参りまして。」

「え!明が?…まさか強引に引き止めてるんじゃないでしょうね!?」

「人聞きの悪いことを」

「だいたい、なんだって明はそこへ?!」

「大貫氏を頼って、相談を」

「相談?」

「はい。それがかなり重要な件でして、電話で済ませれる内容ではないものですので、ぜひ、今からでもお会いして、お話を…」


一気に脱力してしまった弥生は、受話器を持ったまま、その場に座り込んだ。

そこへ、

風呂からあがった夫の敏男が、

「おい!どうした?!」

そんな弥生に驚いて駆け寄り、
その手から、すでに繋がっていない受話器を取って元に戻し、

「…どうしてなのぉ?」

独り言を呟く弥生を抱えてソファーへと座らせた。


「なんだ?何があったんだ?」

「…あたし達には言えない相談て何?」

「は?」

「あたし達のことを、あの男に…大貫に相談しに行ったってこと?」

「…なんのことだ?」


敏男の顔色が、みるみる変わっていく…


いつまでも、隠し通せるはずなどなかったのだ。


一家の大黒柱が、はじめて、これまでの上條家の経過を知ることになったこの日、
これはまだ、ただの序幕に過ぎなかった。

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