彼岸花の咲く頃に
歯噛みする。

憤怒と屈辱の形相で、悪狐は歯を噛み締めた。

今までそこら中で、その力と悪行で畏怖の象徴とされてきたのだろう。

彼女の名を聞けば、人間も動物も、その土地を守る化け狐すらも、震え上がっていたに違いない。

九尾の狐とはそれ程の存在。

名が知られているだけでも数百と存在する日本の妖怪の中でも、限りなく頂点に近いとされる剛の者。

その九尾の狐たる己が、赤子の手を捻るが如く、たやすく辛酸を舐めさせられる恥辱。

「誰がお前なんぞに頭を垂れるものかいっ!」

トン、と一跳び。

悪狐は、石畳を蹴って高々と跳躍した!

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