彼岸花の咲く頃に
夢か現か幻か。

おかしな女性に会ったものだと思いながら首を傾げた翌日。

お客の途切れた昼下がりに、彼女はまたやって来た。

昨日と同様、しゃなりしゃなりと歩きながら。

「千春、稲荷寿司じゃ。稲荷寿司を食わせてたもれ」

「は…はい…」

言われるままに、俺は惣菜のコーナーから稲荷寿司を1パック持ってくる。

「手間をかけたの」

ニンマリと笑み。

姫羅木さんは、やはりレジを通す前にパックを開け、その場で稲荷寿司を平らげていく。

こんなものより美味しいものなんて、そこら中に溢れている昨今。

スーパーのパックの稲荷寿司を、こんなに幸せそうに頬張る人は珍しかった。

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