彼岸花の咲く頃に
そんな事を呟いた後、まるで揺らめくような足取りで、彼女は店を出て行く。

でも。

「姫羅木さんが善狐ゆーのは本当じゃろ?」

俺はその背中に声をかける。

「さぁのう?」

振り向かず、手だけをヒラヒラと振る姫羅木さん。

「昔から人間は、嘘吐きの事を狐だの狸だの言うであろ?」

その背中は、いつもの陽気さがいささか翳っているように思えた。

…彼女は、どんな気持ちでその言葉を口にしたのだろう…。

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