彼岸花の咲く頃に
確かに人が近づいてきていた。

この大雨の中、傘も差さず、また雨の中を走る事もない。

濡れる事を厭わないかのように、悠然と歩く。

それは黒いセーターに黒いタイトミニ、ショートカットの女性だった。

年の頃二十歳くらい。

それを除けば、何もかもが姫羅木さんと対照的な女性。

黒髪から雫を滴らせ、しかしそれを気にする様子もなく。

「店員さん」

彼女は俺に声をかける。

「お腹が空いたから何か食べたいの…そうね…稲荷寿司なんかいいわね」

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