彼岸花の咲く頃に
女性は薄く笑う。

「何が気に入らぬのじゃ?」

「え…」

質問の意味に、戸惑う。

狐につままれたみたいな顔をしていると。

「千春…『千の春』と書いて千春かの?長い冬を乗り越えて、植物が芽吹き、長い冬眠から目覚める春…全ての生き物が待ち焦がれる春。それが千も連なる…千春。何と素晴らしい名前じゃ。わらわは好きじゃぞ、お主の名前」

薄い笑みが満面の笑みに。

女性は見惚れるほどの笑顔を俺に見せた。

事実、一分近く見惚れていると。

「して、千春」

笑顔がスッと消え、彼女は俺を凝視した。

「稲荷寿司が食いたい。ないかえ?」

< 5 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop