彼岸花の咲く頃に
お楽しみ?

遠のく意識の中で、俺は懸命に悪狐を睨んだ。

「何がお楽しみなぁ!性根の腐った化け物が!オドレ(お前)はこのまま俺を連れ去って、食料にするつもりなだけじゃろうが!」

余力を振り絞り、精一杯の罵声を吐きかける。

「なかなか根性があるのね。まぁ、蝋燭の燃え尽きる前の一燃えって感じだけど」

九尾が更に、俺の体を締め付ける。

「あぐぅぅう…!」

同時に、体内に凝縮された毒が流し込まれるような錯覚。

悪狐の妖気が、体に染み込んでいく。

それは毒であり、蜜であり、媚薬であった。

どんなに強い精神力を持っていようと、人間などでは抵抗すら出来ないほどの、甘美な誘惑…。


< 77 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop