彼岸花の咲く頃に
目を細め、幸せそうな表情。

見る見るうちに四つ入りの稲荷寿司のパックは空になってしまう。

「うむ、美味。馳走じゃったのぅ、千春」

空になったパックを俺に手渡し、またしゃなりしゃなりと歩き出す女性。

…嫌な予感がする。

こういう世間知らずな手合いは、無銭飲食なんかやらかした挙句、お金の概念なんてないとかいうのが、よくあるパターンだ。

しかし。

「おぉ、いかんいかん」

ハタと立ち止まり、彼女は振り向く。

そしてスカートのポケットから500円玉。

「釣りはいらぬぞ、とっておけ、千春」

良かった。

稲荷寿司が1パック198円なのも、ちゃんと理解しているようだった。

< 8 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop