彼岸花の咲く頃に
俺は拳を握り締める。

姫羅木さんは、この平穏な冬城で長い間、お稲荷様として生きてきたんだ。

考えてみれば、戦いとは無縁の日常を送ってきたのかもしれない。

本来戦いを好まない優しい性格。

それはここ数日、間近で見ていた俺が一番よくわかっていた筈なのに。

それでも、彼女は見て見ぬふりなどせず、悪狐に襲われる俺を、冬城を守る為に、一度は姿を見せてくれた。

好まない闘争も、俺や冬城の為に挑んでくれたんだ。

それを、この悪狐が…。

「オドレが姫羅木さんを悪ぅ言うな!」

「ほぉう…」

悪狐の表情から笑みが消える。

同時に…風が起きた。

今まで無風だった神社に、強い風が吹き始める。

悪狐の妖気が、大気すらも乱し始めたのだ。

「口のきき方がなってないわね…店員さん」


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