丸腰デパート・イケメン保安課
「…香奈ちゃん」

笙の呼び掛けに、香奈はかすかに頭を上げ笙を見た。

「香奈ちゃんも望まない?犯人逮捕…」

香奈は笙から視線をそらした。迷う様に唇を動かし、また笙を見た。

「香奈ちゃん…何か言いたい事あるの?」
「もう止めて下さい!」
笙と香奈の間に、母親が割って入ってきた。

「つらいんです!犯人を逮捕したって香奈が傷付いた事は変わらないんです!」
「だからって!このまま犯人を野放しにするんですか?!」
「……政治家のおっさんか」

更科の呟きに、母親の動きが止まった。
苦笑いをし更科を睨む。
だが、不自然に泳ぐ視線を更科は見逃さなかった。

「…何の話ですか?」
「いや、独り言っすよ」

口元だけで笑い、更科は腰を上げた。
隣に座る笙の背中を叩く。

「帰るぞ」
「更科さん?!」
「望まねぇって言われてんだよ、俺達は」
「だからって…!!更科さんってば!」

納得できぬまま、歩き出す更科の背を追い掛ける笙。
「ああ…そういえば…」
部屋のドアの前で更科は足を止めた。
ゆっくりと身体を振り向かせ、うつむいて座る香奈の父親を見下ろした。

「お宅の工場、不渡り出して経営危機って聞きましたが…大丈夫なんすか?」
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