丸腰デパート・イケメン保安課
「…ひどい」

笙は足を止め、地面に座り込んだ。
信じられないと頭を抱える。

「親が子供を…」
「……だから権力ってのは嫌いなんだよ」

更科自身、味わってきた経験のある不条理であった。
初めての笙には、この現実はキツイだろう。
だが、慣れてくるものなのだ…。
悔しいが、慣れてしまうのだ。

「被害者が望まない事に手は出せねぇ…俺らは公務員だからな」
「………だからって…」
笙は両手で髪を掻きむしる。

「…そういうモンなんだよ」
「でも!香奈ちゃん…何か言いたそうだった!きっと…犯人逮捕を望んでるんだ!」
「香奈ちゃんだってガキじゃねぇ…両親がした事くらい知ってるに決まってる。知ってるから言わなかったんだよ」


気の毒だ。

香奈はただの泣き寝入りではないか。
更科だって悔しい。だが断られた以上は捜査をやめるしかない。

「東、帰ろう」
更科は、うづくまる笙の背に手を置いた。

「東」
「……金だ」
「金?」

笙の小声を、更科は聞き返した。

「金が何だ」
「金があれば…香奈ちゃんは犯人逮捕できますよね?」
「何言ってんだ?」
「不渡り分って…いくらなんだろう…」

更科は顔をしかめた。
「…知ってどうする?」
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