丸腰デパート・イケメン保安課
「…あれ…香奈ちゃん…」

その日の午後、刑事課に香奈が姿を現した。
入口から中を覗いていた香奈は、笙と更科の姿を見つけると、小さく頭を下げた。




「刑事さん達に、お礼が言いたくて…」

署内の自販機前、笙のおごりのコーヒーを両手で握りしめ、香奈は笑って言った。

「…礼を言われる事なんてないよ…犯人を捕まえ…」
「いいんです、もう」
笙の言葉をさえぎる様に香奈は呟く。

そんな二人を横目に、更科は煙草をくわえた。

「…もう、忘れたいって思うから」
「…………本心か?」

更科の問いに、香奈は一瞬瞳を見開いた。

「それでいいのか?」
「……はい、全部忘れたいんです」

笙と更科は無言した。
香奈の様子に違和感を感じたのだ。

「でも刑事さん達…一生懸命やってくれたから…ありがとうございましたが言いたかったんです」

香奈は笑い、二人に頭を下げた。


「香奈ちゃん…涙目だった」
帰っていく香奈の背を見送りながら、笙が呟く。

「ああ…泣きたかったんだろうな」
「悔しいな…」
「別件でもいい…黒岩を逮捕してぇなぁ…」
「必ず捕まえてやりましょう!」

改めて不条理に怒りを覚えた二人は、ひそかにそう誓った。
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