丸腰デパート・イケメン保安課
ただ、ありがとうを言いたくて…。


そう言って笑う裏にあった、香奈の苦しい決断に気付いてやれなかった…。

なのに、今すぐ犯人を逮捕できない…そんな自分が許せなくて仕方なかった。


非力な自分。

そんな自分が、刑事として人を助ける事ができるのか。


今、こうして若い命を失わせた自分に、人殺しの自分に…。






「辞めます…刑事」


二ヶ月後、笙は自分に決断を下した。


「辞める?泣き寝入りすんのか?!」

更科は食ってかかった。
「黒岩!!捕まえるんだろ?!」

胸ぐらを掴んで激しく揺さ振り、更科は笙に訴えた。

だが…笙の目は、うつろに曇っていた。
それよりも、更科を見ようとはしないのだ。


「捕まえたって…1番安心する人は、もういない…俺が殺した様なものだから…刑事ではいられない」

全ての真実を投げ出すかの様な瞳…。

更科は無言した。
それから力無く、笙から手を離した…。

「……勝手にしろ」


そうして笙は刑事を退職した。


背中に、降ろせない十字架を背負ったままで。
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