丸腰デパート・イケメン保安課
主任と肩を並べて、マンションへと帰る。

主任のコートに通した、私の腕のすぐ先、主任の大きな手が揺れてる。


冷たい空気にさらされて、赤くなってる手。
男らしい大きな手。

たまに、私の頭を撫でてくれる手。


主任、主任…。


私は、自分の気持ちがわかんない。
主任に恋愛感情があるのかもわかんない。

でもね、今そこにある主任の手…冷たそうな主任の大きな手。


私は……。


主任の手を捕まえた私は、静かに握った。
主任は首を傾げて私を見下ろしてきた。


「何だ?」
「…ううん」

うつむいたまま首を振った。


主任への気持ちはわかんないけど、でもね…主任の冷たそうな手を…暖めたいと思ったんだ。


刑事時代の出来事。
実の母との死別。
認知されてた父親に引き取られ、義母に疎まれて育った。


これだけ聞くと、波瀾万丈。

でも主任からは、そういう暗さは無いんだ。

それは多分…心許せる親友がいるからなんだね。
保安課のみんながいるからなんだね。


すごい。
主任はすごいよ。


私にできるのは、今、手を温めてあげる事だけ。


こんな事しかできないけど、いいよね?
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