丸腰デパート・イケメン保安課
堪えられなくなったんだ。
主任の居ない空間に。


何で居ないの?

ずっと馬鹿やっててくれると思ってたよ?
普通じゃないけど、それでも楽しかった。


何が結婚よ!
何が好きだよ!

今、私が泣いてるのは主任のせいだよ!
主任のせいで泣いてるんだよ!


なのに…何で居ないの?

どうした?綾美って聞いてくれないの!


拭っても拭っても溢れ、太腿に落ち服に染み込んでシミになってく涙。


馬鹿……。
主任の大馬鹿野郎!!


「桜田さん」

呼ばれて、うつむいていた顔を上げた。

振り向くと、家紋さんが立ってた。

泣く私を見て少し驚いてる家紋さん。
でもすぐに笑って、再びうつむく私の前に屈み込む。

「どうぞ」

家紋さんが、私に何かを差し出してきた。
視界に入ってきたそれは、オルゴール箱だった。

「荷物、笙からの土産でしたよ」

主任からのお土産は、アンティークのオルゴール箱だった。

片手に乗るくらいの大きさの木箱は、蓋に凝った装飾が施されてて。
色とりどりの小さな宝石が、雪の結晶みたいに並べられている。

中は青いビロードの内張りで、多分、宝石入れなんだろうな。


「綺麗……」
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