丸腰デパート・イケメン保安課
「行きますよ、桜田さん」

出勤時間。
玄関から呼ぶ家紋さん。

「はいっ」

返事をしながら、春用コートを手に持った。



3月半ば、季節は初春。

霜が降りる程じゃないけど、まだ風や朝の空気は冷たい。

でも、柔らかい太陽の日差しは、確実に春が近い事を感じさせてくれる。


「今朝は少し寒いですね」

吐く息の微かな白さに、家紋さんは薄い春用コートの衿を立ててる。


私が保安課に入って、もうすぐ一年。
早いよね。

最初は訳わかんないみんなに振り回されてばっかりで、毎日クタクタになってた。

そんな自分が懐かしいな。



「あ……桜の蕾だ」

駅に向かう途中の並木道、細い桜の木。
その伸びた枝の先に、小さな蕾が膨らみかけてる。


「もうそんな季節ですか」
「開花はどのくらいなんでしょうね?」
「あの膨らみだと、来月頭から半ばくらいでしょう」

家紋さんと二人、桜を見上げた。


来月頭か半ばくらいか。
アメリカに行けるくらいの時期だね。

桜が咲く頃、主任に会いに行けるんだ。


桜、早く咲かないかな……。


何となく、春が待ち遠しい。
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