臆病者の逃走劇
「へ、へえ…でも、ご、ごめん。あたしちょっと用事あるからっ」
「…何の用事?」
「いやっ…ちょっと。だから、ごめん…今度にして!」
目を合わせて言うのが怖くて、目をそらしながら言い切った。
そして返事を聞かずにカバンと本を持って、東条くんが入ってきた方とは反対のドアから出る。
そして追いかけてこられないように、ただひたすら…本気で走った。
だけど私の頭なんかじゃ逃げる場所なんてひとつしかない。
図書室。
大好きな本がたくさんあって、静かな、私の一番の落ちつく居場所。
「はあっ…はあっ…」
情けなく息を荒げながら、図書室のドアにバンッとぶつかった。
引き戸の取っ手を手探りで掴んで、大きな音を立てながら引く。
図書室内には誰もいなくて、ほっと安心しながら後ろ手にドアを閉めようとした。
その時。
誰かにドン、と背中を押されて。
ばた、と座り込んだあたしの背後で、がちゃりとドアの鍵を閉める音がした。