臆病者の逃走劇
怖くて
恥ずかしくて
不安で
逃げたくて
色んな思いが混ざる。
それはあまりにも大きすぎて、涙になってあふれ出す。
ぽろぽろと泣き出した私を見て、東条くんは目を見開いて。
そしてぎゅっとつらそうに眉を寄せて。
「なんで泣くんだよ…っ」
東条くんの片手が、私の腕から離れた。
だけどその手はそっと、私の頬に触れて。
する、と撫でて。
親指で私の唇をすっとなぞった。
すこしだけ傾いた東条くんの顔が、私の顔に影を落とす。
近付く距離に比例して、東条くんの瞼が落ちる。
ドキドキしすぎて、全部がゆっくりとして見えた。
息がふるえて、声が出ない。
だけど明らかに怯えた色を見せる私を、彼は無視する。
やがて距離は数センチになって、東条くんの熱い吐息が私の唇にかかって。
「ーっいや!!」
我に返った私は、東条くんの胸を思いっきり押して距離をとった。