臆病者の逃走劇
だって、こんな人だなんて思わなかった。
いつも女の子に囲まれて意地悪そうな顔で笑ってるし
たくさん彼女みたいなのいるって噂も聞いたことあるし
もっと意地悪で冷たくて最低な人だと思ってたのに。
こんなにも優しく笑うなんて、反則だと思った。
「時間まだあんなら良かった。俺荷物すげー広げちゃったから片付けねぇと駄目だし」
そう言われて、東条くんの周りに目を落とす。
…確かにえらい荒れようだ。
教科書やらペンやらの荷物がかなり錯乱している。
「片付け終わるの待たなくていいから、もう帰って」
「え、でも戸締りが…」
「窓だけ閉めといてくれたらいいから。鍵は俺が閉めとく」
「…えと……」
正直なんだか信用できなくて、不安げに見つめると東条くんは苦笑いを浮かべた。
そして、いかにも慣れた感じで私の頭に手をのせた。
「そんな目すんなって。言っとくけど、こう見えて俺意外と真面目なんだからな?」
「………」
「あ、疑ってんなコラ」
じっと見返すと、そう言ってパチンとおでこを弾かれた。