臆病者の逃走劇


だって、こんな人だなんて思わなかった。


いつも女の子に囲まれて意地悪そうな顔で笑ってるし

たくさん彼女みたいなのいるって噂も聞いたことあるし

もっと意地悪で冷たくて最低な人だと思ってたのに。


こんなにも優しく笑うなんて、反則だと思った。



「時間まだあんなら良かった。俺荷物すげー広げちゃったから片付けねぇと駄目だし」



そう言われて、東条くんの周りに目を落とす。

…確かにえらい荒れようだ。

教科書やらペンやらの荷物がかなり錯乱している。



「片付け終わるの待たなくていいから、もう帰って」

「え、でも戸締りが…」

「窓だけ閉めといてくれたらいいから。鍵は俺が閉めとく」

「…えと……」



正直なんだか信用できなくて、不安げに見つめると東条くんは苦笑いを浮かべた。

そして、いかにも慣れた感じで私の頭に手をのせた。



「そんな目すんなって。言っとくけど、こう見えて俺意外と真面目なんだからな?」

「………」

「あ、疑ってんなコラ」



じっと見返すと、そう言ってパチンとおでこを弾かれた。



 
< 7 / 28 >

この作品をシェア

pagetop