臆病者の逃走劇
痛いようで、痛くない。
手加減してくれてる。
そんなささいなことに気付いてしまう自分が、嫌だった。
だってドキドキしてしまうから。
「とにかく。安心して帰んな」
東条くんは、そう言ってもう一度空を見上げて、私を見下ろして。
「暗くなる前に…な」
そう言って、笑った。
その東条くんの、夕日に照らされた笑顔を見て
――ああ、堕ちた。
そう思った。
それは予感なんかじゃなくて、確かに、そう感じたんだ。