臆病者の逃走劇


それから、東条くんを見かけるとドキドキするようになった。

…それは恋だった。

だけどいつも女の子に囲まれている東条くんに近づけるわけなんてなくて、

私はただ遠くから見つめることしかできなかったのに。


なんで、今。

私は彼に告白されているんだろうか。

どうして好きだなんて言われているんだろうか。

だって彼はそんな素振り、一度も見せたことなんかなくて。


…ずっと切なかったのに。

ずっとずっと、あれからずっと。

切なくてたまらなかったのに。


これは彼の…遊び?


そうだ、だって彼が私を好きになんてなるわけがない。

そんな瞬間も時間も、私達にはなかったのだから。


ひどい。


そう思ったら、鼻がつんとした。

泣きそう。

だけど東条くんの目の前で、しかも周りにもたくさん人がいるのに涙なんて見せたくないくて。


…だから私は、ひたすら走って、その場所から逃げたんだ。



 
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