約束-promise memory-
-壱 side-
一番知られたくない事を知られてしまった。
"婚約"
「ねぇ壱?怒ってる?」
「別に」
俺の腕にしがみつき、俺を上目使いで見つめてくる若菜。
「やっぱ怒ってるー!」
「だから怒ってないって」
怒る気にもなれない。
それを通り越して呆れる。
頼むから上目使いで俺を見ないでくれ。
好きでもない人と付き合うってのは楽じゃないな。
「だってこうでもしなきゃ、壱がまた南沢さんの所に戻っちゃう気がして」
戻る……か。
戻れたらどんなにいい事か。
笑える事言うよなまったく。
「……フッ」
「壱?」
「安心してよ若菜、俺はもう誰も愛さないって決めたから。凛も……誰も」
「壱……」
家までの帰り道、俺は若菜にそう台詞を吐いた。
頭の良いお嬢様なら、それがどういう意味か、理解できると思う。