心の色
 タケシは家に帰ると、
夕食時に祖母のカズヨに聞きました。

「ねえ、ばあちゃんは
父さんを恨んでないの?
母さんと俺を感染させた父さんを…」

カズヨは母方の祖母です。
ということは、タケシの母
ユウコはカズヨにとって実の娘です。
娘をコウイチに感染され、
亡くしたのですから、
タケシ同様、コウイチに
恨みを抱いているのが
自明の理です。

「タケちゃん、あなたにも
色々知る権利があるわよね。」

カズヨは進めていた
夕飯の箸を置きました。

「この事はね、あなたの
お父さんからタケちゃんには
言うなって言われてたんだけど、
もうタケちゃんも大人だから
知っておくべきだと思うの。」

タケシは、何を言われるのかと
固唾を飲みました。

「元々、HIVに感染してたのは、
娘のユウコ。あなたの
お母さんの方なのよ。」

「えっ、父さんから
うつったんじゃなの?」

それは、タケシの考えを
覆す答えでした。

「ユウコがまだ結婚する前、
上京した先で、
悪い男の人に騙されて、
借金重ねちゃって。それで、
お金を稼ぐために風俗で働いていたのよ、
私ら親に言えば、
そんなとこで働かずにも済んだのに、
あの子、誰にも迷惑かけまいと
したんでしょうね。」

タケシは、自分の母親の
そんなふしだらな過去を聞かされ、
耳を塞ぎたくなるのを
ジッと我慢しました。
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